THE TIME YOU ENJOY WASTING IS NOT WASTED TIME

テキサス州オースティン在住の単身赴任者。カフェいかなーい。おしゃれな料理つくれなーい。これぞ男道!

昭和34年『お早よう』を語ろう

 

 

小津安二郎 監督『お早よう』

小津安二郎監督の1959年(昭和34年)上映の映画『お早よう』を観てきました。

 

Austinには、AFS(Austin Film Society)Cinemaという映画館があります。メジャーな流行り物を上映する映画館ではなく、世界のインディーズ作品、隠れた名作的なものを中心に上映している映画館です。日本の古いものもたまに上映しています。

 

私は過去2回ここで映画を見たことがあります。1回目は日本で1971年に上映された『ゴジラ対ヘドラ』、2回目が昨年日本で公開された『ドライブマイカー』でした。そして、3回目の今回、1959年に日本で上映された映画『お早よう』です。英語できちんと理解できる自信がないので、日本語で英語字幕の映画を選んで見に行ってます笑。

 

AFSのホームページからの引用です。
ホームページでは1954年と記載されていますが、1959年の間違いです。

 

ちなみに、上映された1959年がどんな年かと言うと、皇太子殿下(現在の明仁上皇)のご成婚の模様がテレビで放映され、美智子妃殿下の「ミッチーブーム」に湧いた年です。 当時のテレビ普及に拍車を掛けた出来事です。

 

観に行こうと思ったワケ

私は定期的にAFSの上映作品をチェックしているのですが、まず小津安二郎作品をこれまでの人生で1本も観ていないので、観たいなと思いました。作品概要をネットで調べたところ、主人公は、男の子兄弟です。お兄ちゃんが中学1年(初歩的な英語を勉強するシーンがあるので)、弟くんが小学生低学年(国語の授業でしりとりを勉強していた)でした。

 

この主人公二人がちょうど私の父親、母親と同じぐらいの年齢なので、両親が子供時代を過ごした世の中や暮らしはどんなだったんだろう、という好奇心があります。私は、父や母の子供時代の写真を見たことがありますが、全て白黒でした。しかし、この映画はカラー作品です。昭和30年代のカラー作品を見たことないなと思い、その点でも興味がありました。

 

調べたところ、日本の初カラー映画は1951年(昭和26年)らしいですが、本格的に普及したのは1960年代に入ってから、とのことなので、この作品はカラー映画の走りだと思います。

 

この日の映画館入り口

 

200人ぐらい入る劇場だったのですが、約5割、100人前後ぐらいお客さんが入っていたと思います。ガラガラじゃないかなと想像してたのですが、思ってたよりは入ってました。アメリカの人でも日本のこの時代に興味がある人がいるんですね~

 

ストーリー

●メインストーリー

特にこれといった大事件はありません。雰囲気で言うと、長めの「サザエさん」を見ているような印象です。主人公のお兄ちゃんがカツオ、弟君がタラちゃんによく似てます。お父さんも波平にちょっと被ります。お父さんは笠智衆です。この映画の役者さんで、唯一聞き覚えがある人でした。

 

この家族は長屋に住んでるのですが、自分の家にはテレビが無いため、この兄弟はテレビを持っている近所のおうちに頻繁に見に行きます。でもテレビを持っているおうちは、女性が水商売(部屋着からして妖艶)のため、母親はあまり行かせたくありません。

 

脱線しますが、この水商売役の女性、あまりにも綺麗な方なので、あとで調べました。泉京子という女優さんでした。Wikipediaによると『元祖美人グラマー女優として名を馳せた』と記載があります。そりゃ、母親なら、元祖美人グラマー女優のところへ年頃の息子を行かせたくないでしょうね。

男性の方はググりたくなったんじゃないですか?お手間を省きます。どうぞ。

 泉京子 - Google画像検索

 

で、母親に「あのおうちにテレビを見に行ってはダメ」と叱られると、「じゃあ、うちもテレビを買ってくれ」とせがみます。あまりにもしつこくせがむので、お父さんに「つまらんことばかり、いうな、黙っとれ!」ときつく叱られます。「じゃあ、もうしゃべらない」と言い出し、そこから、兄弟の口を利かない日々が始まります。

 

家だけでなく、近所でも学校でも一切口を利きません。心配した学校の先生が家庭訪問して、事情を確認します。家に先生が来たことをいち早く察知したこの兄弟は、家出してしまします。。。とこんなあらすじです。

 

まだ続きはあるのですが、全部は書かないでおきます。上記のメインストーリーを軸にいくつかのサイドストーリーが織り込まれています。

 

劇場の入り口。おしゃれです。

 

●サイドストーリー

子供達の間で、「おでこを指で触られたら、オナラを出す」と言う遊びが流行っています。失敗してオナラ以外を出してしまう子、軽石を食べたらオナラが出やすいと言う噂を信じて軽石を削って食べる子、できるようになって自慢げな顔をする子。アホやなぁと思う反面、ゲームや携帯に熱中する子より子供らしいというか、ゲームや携帯がなければ、子供ってこうなんかなと思いました。

 

長屋の奥様方は、噂話が大好きです。その時、集まった人で、その場にいない人の噂話をずっとしています。長屋の集金を通じて、集めたお金が行方不明になるという事件が発生し、奥様方の誰が怪しいと言った噂話が尽きません。

 

これらいくつかのサイドストーリーを絡めながら、メインストーリーが進んでいく構成です。

 

印象に残ったこと

●無駄な挨拶

お父さんに「つまらんことばかり言うな、黙っとれ!」と叱られた後、お兄ちゃんは、「大人だって、おはよう、こんにちは、と無駄なことばかり言っているじゃないか」と主張します。後日、これを知った近所のお兄さんに諭されます。「人生は無駄があるからいいんじゃないかな。その無駄が世の中の潤滑油になっているんだよ」と。

 

社会からいろんな無駄が排除され、潤滑油の無いギスギスした世の中に変わりつつある昨今。心に留めておきたいセリフだと思いました。

 

「余計なこと言うのは大人じゃないか」とのお兄ちゃんの主張。
AFSのツイッター画像から引用。

 

●テレビ

実はお父さんはテレビを買うお金がないわけではありません。テレビを買ってしまうと、子供がテレビばっかり見て勉強をしなくなるんじゃないかと危惧しています。

 

この時代の親(私のおじいちゃん世代)は子供にテレビを買い与えることに悩んだし、私の親世代は子供にゲームを買い与えることに悩んだかもしれません。我々世代は子供に携帯を与えることに悩みますしね。買い与える対象が変わるだけで、親の悩みは時代が移り変わっても一緒なんやー、と思いました。

 

●タイトル『お早よう』の意味

調べてみると、1959年の白黒テレビの普及率は30%弱。63年には90%に達するので、この映画の時期はちょうど爆発的に白黒テレビが普及しだした時代です。

 

この映画の中で「テレビが一億総白痴化を招く」と言うセリフも出てきます。テレビが普及することにより、「お早よう」などの挨拶に代表される人々の間の潤滑油が希薄になり、ギスギスした社会になる未来を小津安二郎は見たんじゃないでしょうか。

 

実際、テレビ⇨ゲーム⇨携帯と時代が進むにつれ、それと関連するのかどうかは分かりませんが、社会の潤滑油は徐々に無くなってきているような気もします。小津安二郎の直感は正しかったのかもしれません。

 

●着こなし

服の着こなしですごく気になったことがありました。ある男性が冬の夜に急に外に出かけることになるシーンで、石田純一のようにセーターを肩掛け(いわゆるプロデューサー巻き)して、その上にコートを羽織りました。

 

セーターの両腕部分を前で結んでいるので、ぱっと見、マフラーを巻いているように見えます。背中側はコートで隠れています。こんなセーターの使い方見たことないので、当時流行ってた着こなしなんかなとすごく気になりました。ネットで調べてみたけど、分かりませんでした。

 

お兄ちゃんに従順な弟くんがとってもキュート
AFSのツイッター画像から引用。

 

●普遍的なもの

テレビも、ゲームも、携帯もない時代です。しかし、人々は生き生きとしています。テレビ、ゲーム、携帯は本当に我々を豊かにしてるんでしょうか?そして、長屋生活だけど、そこに住む人々から不幸な感じは全くないです。綺麗な家、大きな家に住むことは幸せなことなんでしょうか?

 

生活環境は今と全く違うけど、人の営みは恐ろしいほど現在と一緒です。普遍的なその中に、人間の豊かさや幸せを垣間見たような気がします。

 

最後に

自分の親はこいういう時代を過ごしたのか、と思うとなんかほっこりするというか親近感が湧くというか。ただ、この映画の舞台は東京近郊のようなので、当時の地方は年代的にもう少し遅れているかもしれません。

 

この映画から60年が経過した現在。今はサブスクリプションで、聞きたい音楽、読みたい本、観たい映画に瞬時にアクセスできる時代です。なので、逆に自分の興味外からのインプットは減ってしまう時代かもしれません。たまには、こういう自分ではなかなか選ばないであろう映画をわざわざ観に行くのもいいもんだなと改めて思いました。

 

それでは、またー

 

この指の形にも意味があります。当時の人なら分かるのかな?ご存じなければ、映画でご確認ください。

 

⇩過去、同じ劇場で「ドライブマイカー」を観たお話はコチラ

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